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その前日にはY本部の岩国らがオーナーであるYの自宅2階に泊まり込み、翌日早朝の開店に備えた。 近くのビジネスホテルに泊まればよかったが、Y本部の日当はY堂の半分しかなく、ホテルに泊まれば足が出るからでもあった。
開店当日はあいにく小雨が降っていた。 開店時間は午前7時だったが前日到着するはずの商品の一部が入荷されていなかったため、開店時間前に店のドアは開けてあった。
午前6時半ころ、1人の中年男性が外から店内を覗いていた。 そして「入っていいですか」と開店準備をしているYらに話しかけてきた。
「よし、もうオープンしよう」と言い、店を開けた。 この男性がSの最初の客となった。
男性はカウンターに並べてあった800円のサングラスを買っていった。 開店初日の売上高は50万4千円。
主な品ぞろえはコーラ、ジュース、ポップコーン、サンドイッチ、ホットドッグ、牛乳、卵、ビール、週刊誌、缶詰、調味料など。 現在のSの主力商品の「おにぎり」や「おでん」はどこにもなかった。
この日、ある人物が店を訪れていた。 ダイエー社長のNだ。

Nもコンビニ経営に進出する計画をもっていたからひそかに視察にやってきた。 Nは1年後もこっそりこの店にやってきている。
既にYのSが繁盛店であることはマスコミを通じて知られていたが、Nは本当かどうかその目で確かめたかったのだ。 ダイエーがコンビニー号店の「L」を出店したのは約1年後の75年6月だった。
1号店は開店後、極めて順調に売り上げ成績を伸ばしていく。 開店景気が収まっても平均日販は4万円程度あり、酒販店時代に比べると約5割の売り上げ増となった。
Y本部やオーナーのYは初年度の年商を1億5千万円と見込んでいたが、実際には1億8千万円強に達した。 「S」となって大きく変わったのは、それまで中高年の男性や主婦が多かった来店客の中に子供や若い男性の姿が混じるようになり顧客の年齢が若返ったことだった。
現在もYが経営する「S」は同じ場所で営業をしている。 最近ではS1号店ということが知れ渡っており、地方の修学旅行生が見学にやってくる。
Sの原点小売業は毎日、売上金が入る日銭商売なため、ともすれば丼勘定になりがちな業界だ。 生産性の視点から経営を見ることなどなかった。
そうしたなかでSの頭の中に生産性などの考えが根付いたのは、S自身が最初から小売業の世界に入らなかったことに遠因がある。 Sは1932年に長野県北部にある坂城町の8人兄弟の下から2番目として生まれた。
父親は町長などを務める地元の名士。

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